時代のデザインをどうシフトするかの方法論

 

時代を感じるデザインというのが存在します。昔の建物というのは現在ほど工法や材料の種類が少なく人の価値観にも今ほど多様性がなかったためか、似たようなデザインが各地に多くありました。また施工者や設計者も一定の地域や条件下の中でそれほど選択肢がなかったのも要因かも知れません。そうしたデザインはよほど質の高いものでない限り時間の経過とともに古びたっものになってしまっているような気がします。そこには「古き良きモノ」と「古臭いモノ」の違いがあるのです。

 

本件は元々ラウンジだったスペースを改装する案件でしたが、馴染みのない人でも「この頃のこういう店はこんな感じだよね」というような、まさにそのままのイメージでした。ここでいう「古臭い」側のデザインでした。
店舗デザインにおいて什器の重要性を高く考えている私としてはコストバランスを保つために床、壁、天井の各面は仕上げの張替えのみでの提案を選択しました。既存の壁にあった装飾部材が元々のデザインの印象の大部分を担っていましたが、気品のある空間にする上でクラシカルな装飾はベクトルとしては間違っていないと判断し、そのほとんどを活かす方向で検討を重ねました。表情の濃い装飾を塗装で塗りつぶしモダンに仕上げる案も検討していましたが、ファッショナブルになりすぎると店のコンセプトとは少しずれてくると判断しそのままの利用としました。そうしてできたベースの空間に、クラシックなデザインで真鍮など素材感のある照明をアクセントとして利用し、家具も革や鋳鉄などのトラディショナルな素材感が前面に出るものを選択しておきました。

 

誇張した言い方にはなりますが、時代を超えて「古臭い過去」を「古き良き伝統」にシフトすることは可能なことを少しながら具現化できた案件であったように思います。

 

 

担当者 / 園田 泰丈 ※内装意匠設計 サインデザイン