塩梅(あんばい)の良い仕事

 

 

 

 

もともと料理に梅酢を使われていた頃、その塩加減が適切で味付けの具合が良いことを「塩梅が良い」と言ったそうです。
現在では物事においてちょうどよい具合を表す表現として一般に使われることが多いかと思います。

 

 

店舗デザインにおいては「塩梅」が重要です。

 

 

 

そもそもデザインという仕事は大きく2つの作業として分けて捉えられると考えることがあります。
それは「適正値の設定」と「配合の検証」です。

 

 

適正値の設定とは、デザインの様々な評価基準を抽出し、その目標点を設定することです。

例えば、広い空間が求められるプロジェクトは「広さ」という基準を抽出してその目標点を高く設定するが、

クライアントが掃除を業者に任せる等の場合は「清掃性」という基準はある程度低く設定出来るなどの判断をしていくということです。

 

 

配合の検証とは、形状や素材を決めていく中で、開放感があるがプライバシーが確保できないとか、色味が良いが質感に魅力がない素材など、

選択するものの特性が設定値に近づける配合にできているかを検証するということです。

 

特に空間のデザインは良くも悪くも様々な要素が影響しあう為、例えば色ひとつにおいても照明の具合で調整ができたり、

触感が好ましくない材料は身体に触れない部分に使用したり、手前にガラスやアクリルを設けるなどの工夫で都合よく解決することができます。

つまりそれぞれの形状や素材のプラス要素とマイナス要素を足し引きして調整してゆくというイメージです。

 

 

店舗設計では地域性や立地によって客層が大きく変化し、人の好みや評価が変化します。

それに対し店のコンセプトをどう設定するか、店員の人柄や対応等によっても、それらが最終的には客層に影響を与えてくるようにもなります。

そのすべてがバランス良く保たれることによって居心地の良さや評価が高まり、店の運営も安定してくると考えています。

 

 

 

本プロジェクトでは、ワインと日本酒の確かな目利きと、それに合う創作料理を提供できるということを強みにした食堂にすることとなりましたが、提供する物の良さを伝えたい思いや、一定の客層の質を保つことが求められながらも、敷居が高すぎず地元で愛され続ける店にすべく、店舗意匠にもその絶妙なバランスが問われることとなりました。

 

 

親しみやすい店名とロゴが描かれた暖簾をファサードのポイントとし、デザインの縁取りはシンプルな形状で凛とした店構えでありながら、暖かな雰囲気でふらっと立ち寄れる優しさをテクスチャーや色合いに含ませました。

 

実際にオープン前日の撮影時には30分ほどで実に6組の通りすがりの人がそのまま店に入りかける事態となったほどです。

 

 

小さな店内には6メートル以上の酒瓶が並ぶ迫力のある吊戸棚とカウンターを配置しながらも、圧迫感を抑える配慮や、質の良い椅子を配置しながらも、身構えることなくどこか落ち着くように雰囲気を調整しています。

 

 

デザインはいわゆる綺麗とかカッコいいと言われるベクトルに向かうことを求められがちですが、はっきり言うとカッコいいだけのものを描くのは簡単であるし、それだけでは店側の提供物や接客の振舞い、客側の求める事などにフィット出来ず、結果的にそこに残るものは美しく保たれないと考えています。

 

 

基本的には建築インテリアの仕事はクライアントやターゲットが存在する工業製品のデザインであって、使われている姿が美しくないのであればそれは誰にでもできる自己満足の作業となってしまいます。

 

 

 

 

空間を形どっていく過程で様々な要素を足し引きして、最終形となった段階でいかに各要素が適正値となっているか、

 

 

時に大胆に動かし、時に程よく崩し、時に丁寧に整えながら、良き塩梅をさぐり続けたいと思います。

 

 

 

 

 

 

担当者 / 園田 泰丈 ※内装設計 サインデザイン