ゾーニング時にアプローチや駐車スペースなどの外部空間の確保をしたのち諸条件を踏まえ建築範囲にあたりを付ける。
そこから室内空間を組み立てるのが教科書的な設計手順といえます。
これは言い換えれば最初に敷地範囲から外部スペースをそぎ落としておき、建築ボリュームを狭めておいてから徐々に具体的な計画段階へ移行することになります。当然この順序通りに設計した方が複雑な設計作業を整理しやすく、特に建築物を在来工法などのグリッドプランに乗せる場合には合理的な手段です。
しかし当物件は最初から建物を配置する範囲を絞らず、敷地全体を一つの建築ボリュームとして捉えたまま計画を進めました。
平たく言えば最初に描いた四角い枠の中で必要な諸室のパズルを組み立てるのではなく、敷地全体をキャンパスにして、「この辺に壁を設けてプライバシーを確保する」とか、「この辺に屋根を設けることで日当たりと日影の範囲がこのように分かれる」といった具合に。
そして最終的に折り合いをつけながら諸室の要素を飾り付けるようにプランを仕上げたのです。
このようにした主な理由の一つとして、隣地にクライアントの実家があったことや、その他周囲との高低差があったことなどから、
それぞれの関係性を十分に配慮したプランが求められたことが挙げられます。
とはいえ、設計者は一連のプランニング作業を同時多発的にこなしていくため、計画の順序が複雑に前後することを考えると決して珍しい手法としたわけではないし結果的に同じことだとも言ってしまえるかもしれません。
しかし敷地から建築ボリュームを切り離さないことを強く意識したことによって、最終的に出来上がったこの建物は地面から生えてきたように土地との一体感があり、この場所に非常に馴染んだ佇まいと水平方向に伸びやかで自由な空間構成を持った建築物となりました。
また、このプロジェクトでは素材の選定と使いどころにも特に気を配り、自然素材の利用とピュアな素材感を意識して「品」のある空間に仕立てました。
内部の壁は厳選された珪藻土を使用し、着色料や施工性を上げる人工材料を一切使っていない物としています。
これは珪藻土を配合しただけの一般的な商品とは異なり、体感できるレベルで臭気の吸収や湿度調整が可能な機能性を保有しています。
外壁は火山灰を原料とし断熱効果や保温効果を持った高耐久性の自然素材を採用し、古くからあるかき落とし仕上げで独特の情緒ある風合いとしています。
その他、内部の檜材の床にはソープフィニッシュ仕上げを施し、オイル塗装とは違った木の本来の素地色が残る表現としました。
これらの仕上げ選定の一方で、強度等を考慮して集成材を使用した梁やコスト面への配慮から非化粧材を使用した躯体部分をグレー色で塗りつぶしています。
この点について、一般的に躯体を現しにする場合で、特に今回のような自然素材の風合いを表現した建築においては、木部の仕上げとして矛盾したようにも思えますが、これはコストや扱いやすさの面で不利な自然素材を傲慢に押し付けるような提案とせず、様々な面でトータルバランスを保った内容とするために一役買っています。
結果的には意匠面においても、木組の構成が強調される効果、全体のカラーバランスにおけるアクセントカラーとしての役割、木目が執拗に主張することを抑えて落ち着いた印象を与える効果などがもたらされています。
光、風、視線が絶妙に通り抜ける緩やかで自由な空間をもたらすこの建築の中で、
これからクライアントが住まいながらにしてその時々の素敵な居場所に気づいていけるような暮らしとなることを願います。
ひろしま住まいづくりコンクール2017 最優秀賞(新築部門) 受賞
担当者 / 園田 泰丈 ※設計・監理