研究所長の日誌-No.006 : 人に教えること

 

 

 

本年より資格取得予備校で国家資格である建築士資格取得講座の講師を務めさせていただいております。

昨年から専門学校の講師も務めておりますが、私が建築の指導に関する依頼を積極的に引き受ける理由の一部と、それに関連して今考えていることを少し書き残しておきます。

 

 

一人の人間が自分の体得したものを少しでも多くの人に伝えることは皆が豊かな人生を送るために役に立つことだと思っています。これは決して自身の知識経験の量や質の高さを驕っているわけではなく、全く同じ知識や経験を持っている人はいないという考えからです。より多くの人に自分の中にある知識や経験という財産を分け与えることが自身を含めた社会全体を豊かにすることであろうと願っています。

 

 
さて近年、建設業界やその中の設計業界においては人材の不足と個人の能力の低下が危惧されています。

一部の資料によると、建設業界全体では現存する人材の総数は減少し続けております。当然市場の変化や需要バランスなどもあるため一概に危機的な状況とは言えません。

 

しかし最も重要なのはこれを年代別でみた場合です。30代では数年前までの十数年ほどで60%の減少、20代にいたっては80%ほども減少しているそうです。私も含め建築士や設計事務所の数もまだまだ多いとされてはいますが、例えば一級建築士は半数以上が50代以上の人で平均年齢は55歳ほどといわれています。これらのことは近い将来に急激な人手不足に陥ると同時に、能力がまだ育っていない技術者の割合が多くなりそれに頼らざる負えない状況が来ることを示しています。

 

日々新しく変化し続ける状況やある種の仕組みの中で今後のそれを担っていくのは常に新しい世代の人間です。私自身も含め若い世代がこれからより多くを学び、それを伝え続け、互いに高めあうことが必要なのではないでしょうか。なぜならこれまでも先人がその先人に伝えてもらった財産を次に繋いでいくことで私たちの生活や文化はより豊かになってきたはずだからです。

 

 

また建築業の現状について少し主観的な見解も含みますが、複雑化する法制度や経済中心の時代の動きに伴い業務の分業化やさらなる細分化が進んだことで、自分たちの職務において全体像を把握しづらく、本質が見えにくくなっている人が増えている状況があると思います。

そんな状況下では通常では考えられないような問題が発生したり、自分の仕事が何のためのものかわからないため士気が上がらないのは無理もありません。こうした環境も人の向上心を削ぎ、技術者個人の能力の低下を招いている要因の一つでもある思います。

 

誰が悪いということでもない。そこで大切なのは一人ひとりが自分自身の志をしっかりと持ち、そのためにすべきことを自分で決断することだと思います。

「誰かがそう言ったから」「誰かに怒られるから」「今までそうしてきたから」「いつもそうしてるから」多くの人がそんなことをいいながら仕事をしてしまっていないでしょうか。「何のために、誰のために、どういう理由があって」「いつ、どんな状況で」「どんな選択をして、どういった方法で」仕事をするのか。これをもう一度よく考えて自分自身ですべきことを決断すれば、自由と責任をともなった良いモノづくりの仕事ができるのではないかと思っています。

 

 

 

様々な縁もあって次代を担う建築士を生み出す仕事の一部を仰せつかった私ですが、自身のさらなる精進によって、この仕事に誇りを持って取り組んでいる『姿勢』を示せる建築士であろうと思っています。

 

そしてその信念をどれだけ周りの人に感じてもらえる力があるのかということこそが今自分に問われているのだと思います。

 

 

 

 

代表 / 園田 泰丈