この仕事をしていると時にどのような建築をつくるかという問いを受けます。
一般的に多くの場合それは建築デザインのイメージの傾向を聞かれているのだと認識しています。
和風や洋風、モダンやクラシックなど…
しかしこれらのイメージスタイルともいわれる言葉はあくまで完成された物に対して、後に第三者がカテゴライズし、ある一定の感覚の中で種別の表現として使われる言葉にすぎないと考えています。
創造する者の思考の順路としてはあくまで和風を造ろうとか洋風に仕立てようなどと安易に考えていないはずであって、建築デザインとは各所の検討事項に対してひとつづつ解答しながら築くものだと思います。
画像は私が建築家にあこがれるきっかけとなった近代建築の巨匠ミース・ファン・デル・ローエの一作です。
一般にはいわゆるモダンなイメージスタイルの建築と捉えられているものの一つではないでしょうか。
ここでは私が生まれるほぼ100年前に生まれた彼が残した2つの名言について意見を記します。
「less is more」(より少ないことはより豊かなことだ)
不要な要素を限りなくそぎ落とすことで、より美しく豊かな意匠がつくられるという有名な言葉です。
これは現代の多くの設計者の思想に影響を与え、近年では地方の工務店などでもこういった思想になぞらえてシンプルモダンなどとカテゴライズされる住宅も多くなりました。しかし私個人としては彼の建築はシンプルでもモダンでもないと思っていて、まったく質の異なる捉え方をしています。
見方によってはそぎ落とすどころか十分に普遍的な価値観に即しているうえ、当時の先端設備の採用や建築システムの構想に至るまで各作品の随所に垣間見られます。
「God is in the detail」(神は細部に宿る)
近年ではコストや施工難度の懸念が強いためか、一つ目の言葉の表層的な部分だけを掻い摘んで、悪い意味で実に簡素なつくりのものが増えています。
しかし彼の作品について決して多くを学んでいるとは言えない私でも、その一つ一つのディテールには並大抵ではない深い思考を感じます。
世にある建築の中でも特に細部にしっかりと配慮されている建築は、訪れた際に写真ではわからない質の重みを肌で感じますし、逆にそれがないものは裏切られたように拍子抜けするような軽さを感じます。
要するに私がミースの作品が好きで、なおかつ影響された部分があるからといって表面的に彼の作品に似た建築を目指しているわけではないということです。
さらに言えば逆に表面的に似ている建築をつくるかもしれないということでもあります。
一般にイメージスタイルといわれる観点においては私はニュートラルなスタンスにいると思っています。
なんでもやるし、なんでもはやらない。
ビジネス的な観点から「わかりにくい」とか「中途半端」と言われることもありますが、作り手として言えば、誰もがすぐにその本質を理解できるようなレベルのものは目指していないし、中途半端とはその質が高くなればバランスのとれたミスターポリバレントとなれるはずです。
写真:『ヘヴンリーハウス-20世紀名作住宅をめぐる旅6 ファーンズワース邸/ミース・ファン・デル・ローエ』後藤 武 著 より
代表 / 園田 泰丈