近年の新建材はかなり質が高まっているため、一見すると本物の木と見間違えるようなクロスや面材、あるいは天然石や鉄のようなサイディングやタイルなどが多くなってきました。
しかしながらそういったものだけを使って一つの建築空間をつくると不思議と物寂しい感覚を覚えます。
素材には生きた表情があり、人間は無意識化の中でそれを感じ取っているのだと思います。
あえて説明をすればそれは色柄のムラや形状のクセなど個々の材料の細かな違いなのでしょうが、詩的に言い換えるとすれば、そこに見え隠れする造り手が手を加えた痕跡や使い手が残した痕跡の一つ一つが見る人にモノの歴史や深みを語りかけているのかもしれません。
本件は大雑把に言えば既存の無機質な鉄やガラス、コンクリートで構成された空間の中に、有機的な木材や植栽で内装を整えています。
改装には新建材はほとんど使っておらず、昔からあるスタンダードな工業製品を利用しています。そのため新建材のように人為的に整えられた色柄や質感とは違って、工場生産品でも製法上一つ一つに無作為な違いが出るようなものを選定しています。
シンプルな構成にもかかわらず内部に配置した家具や装飾が、コンクリートの鏝ムラ、鉄の歪み、ガラスの小さなキズなど、既存の無機質な空間の細やかな表情を浮きだたせ、全体としてクラフト感のある温かい空間となっています。
近年人通りの減少が危惧されている郊外化都市の駅周辺ですが、角地にあかりを灯し、賑わいと温かみをもたらしてくれる建物になってくれると思います。
担当者 / 園田 泰丈 ※内装設計