~窓辺の在り方と建物の普遍的価値~

 

 

 

建築設計の一番大きな要素は開口部の設計と知っても過言ではありません。

 

 

ドア等の開口部の配置によって人の動く向きやルートが決定づけられ、窓の配置等によって屋外の景観の取り込み、光や風の動き、人が佇むポイントや向きなどが決定づけられていきます。

 

 

本物件は約7mの幅のある大きな出窓が屋外の光と眺望を受け入れる装置となっており、外観からもこの建築のシンプルな構成を感じさせるアイコンになっています。

人が座れるように補強した下部収納と窓台の出幅が合わさり、家族が佇めるほどゆったりとした窓辺空間となっています。

出窓の深い奥行きと程よい高さ設定が絶妙な緩衝空間となっており、大開口でありながら緊張感を感じることのない開放性を保ち、外から見てもその存在を過剰に誇張するような開口にならないように配慮しています。

 

また全幅にわたる麻布を貼った和障子を採用したことで、暑い日の日差しや外部からの視線を柔らかに遮ることが可能となっています。

和障子は壁と一体的に設置した引き込みの戸袋によって、違和感なく開閉状態を容易に切り替えることができるよう計画しています。

規格住宅やセミオーダーでは実現が難しい、周辺環境に対しての適切で細やかな開口部計画が、建築の質を高め、より豊かで使い易さを感じられる空間づくりの大切な要素であると考えています。

 

 

 

話は少し変わりますが、半世紀近くも前に山の形状に沿って階段状に造成されたこの敷地は、北西に山を背負い、南東側に視界の開けた崖縁の場所にありました。

 

敷地の表裏両面が崖状の地形に挟まれて条例の対象になるうえに、半端な広さかつ歪んだ敷地形状であったことから、長らく住宅用地としてうまく活かされていませんでした。

規格住宅などではうまく活用しづらい土地だからこそゼロベースの設計の価値がより発揮できる側面があります。

そこで出来るだけ日常生活での行動をワンフロアで完結させたいとの要望もふまえた結果、下部に十分な駐車スペースを確保したうえで、伸びやかな平屋建築を浮かせるイメージを提案し、解放性と実用性を共に得られる構成としました。

 

 

この敷地は周辺の地形として小川のある細長い谷地を挟むように小高い山並みがあり、その一方の上りがけに位置していたため、小川に沿って谷に広がる家々と、その向こうにある小高い山の尾根が見渡せるような場所となっていました。

この風景を適切に切り取る大きな出窓は、時代に取り残されず、普遍的にこの場所の魅力を残し続ける存在として寄与するのではないかと考えました。

 

 

全体の外部意匠については、山並みの自然色に馴染むモスグリーンの左官部分、使い込んだように馴染む色と風合いの焼杉部分、マットな質感で金属の素地色を感じさせるシルバー系の金属部分の3色の外壁を適切な配分で使い分けました。

周辺地形に調和する屋根形状の設定と、建築全体の構成に合わせた外皮素材の貼り分け、素材の質感や特性を素直に表現したカラーリングによって、固有の存在感を保ちながらも、昔からそこに存在していたかのように土地に馴染んだ外観を形成しています。

 

 

昔からあったとしても、今においても、未来にありつづけたとしても、自然にこの場所に馴染んで存在し、環境と人の営みの間を取り持つ建築として生き続けることを願います。

またこの建築に携わった人たちがいなくなる遠い未来まで、その思いを残し続けるような存在になればと思います。

 

 

 

担当者 / 園田 泰丈 ※設計・監理